夜中に「ネットワークエンジニア オワコン」と検索して、この記事にたどり着いた方へ。最初にお伝えしたいのは、その不安は根拠のない思い込みではない、ということです。クラウドへの移行、設定作業の自動化、AIを使った運用の効率化——ネットワークエンジニアの仕事の中身は、実際に大きく変わりつつあります。
ただし、「職種そのものが消える」という話と、「仕事の中身が入れ替わる」という話は、まったく別のものです。この記事では、慰めも煽りもなしに、いま何が減っていて、何が残り、何が増えているのかを構造から整理します。そのうえで、いまネットワークエンジニアとして働いている人、これから目指そうか迷っている人が取れる選択肢を、順番に見ていきます。
なぜ「オワコン」と検索されるのか
そもそも、なぜこれほど多くの人が「ネットワークエンジニア オワコン」と検索するのでしょうか。背景には、この職種を取り巻く3つの構造変化があります。どれも一時的な流行ではなく、後戻りしない変化です。
クラウド移行 — 「機器を買って組む」仕事が減った
かつてのネットワーク構築は、ルーターやスイッチ、ファイアウォールといった物理機器を選定し、購入し、ラックに載せ、ケーブルを挿し、一台ずつ設定していく仕事でした。クラウド移行が進むと、この工程の多くがクラウド事業者側に吸収されます。利用者側から見れば、物理層はもう「そこにあるもの」であり、触るのは管理画面とAPIです。物理構築の仕事そのものが、企業のオンプレミス縮小とともに減っていく——これは避けようのない流れです。
SDNとIaC — 設定作業がコードに置き換わった
ネットワークの設定を機器一台ずつコマンドで投入するのではなく、コードで定義して一括反映する。SDN(Software Defined Networking)やIaC(Infrastructure as Code)と呼ばれるこの流れは、「手で設定を入れる作業者」の数を確実に減らします。10台に同じ設定を入れる仕事は、コードを書けば1回で済むからです。
AIOps — 監視と一次対応が自動化されつつある
アラートを目視で拾い、手順書に従って一次切り分けをして、エスカレーションする。この監視オペレーションの領域には、異常検知や対応の自動化(いわゆるAIOps)が入り込み始めています。完全な無人化には遠いものの、「人が画面を見張る」仕事から自動化されていく方向性は明確です。
さらに近年は、生成AIの普及で「設定もトラブルシュートもAIに聞けばいい時代が来るのでは」という漠然とした不安が上乗せされました。SNSでは「インフラエンジニアはオワコン」といった断定的な言説も目につきます。現場で変化を肌で感じている人がこうした言葉を目にすれば、深夜に検索したくなるのは自然なことです。
つまり「オワコン」という検索が増えるのは、変化の感覚そのものは正しいからです。問題は、その変化が「職種の消滅」を意味するのか、それとも「仕事の中身の入れ替わり」を意味するのか。ここを分けて考えないと、必要のない絶望か、根拠のない楽観のどちらかに落ちてしまいます。
減っている仕事と、増えている仕事
結論から言えば、消えつつあるのは「ネットワークエンジニア」という職種ではなく、その中の特定の作業です。同じ職種名の中で、仕事の重心が移動しています。
縮小傾向にある仕事
- 物理機器の設置・配線・単純なコンフィグ投入 — オンプレミスの縮小とともに案件自体が減っていく領域です
- 目視ベースの監視オペレーション — アラートを見て手順書どおりに動く仕事は、自動化の対象として真っ先に挙がります
- 手順書に沿った定型運用 — 「判断が要らないように標準化された作業」は、標準化されているがゆえに機械に置き換えやすい構造です
ここで一つ正確に書いておくと、「縮小傾向」は「明日消える」という意味ではありません。オンプレミスの機器は今日も全国で動いていて、その保守や更改の仕事は当面なくなりません。ただし方向としては減っていく側であり、この領域だけでキャリアの残り全部を走り切るのは年々難しくなる——それが正直なところです。
残る仕事・広がっている仕事
- クラウド上のネットワーク設計 — VPCの設計、オンプレミスとクラウドをつなぐハイブリッド構成、マルチクラウド間の接続。クラウドになってもネットワークは消えておらず、「見えなくなった分だけ設計が難しくなった」のが実態です
- セキュリティ領域 — ゼロトラスト、SASEといった流れは、ネットワークとセキュリティの境界を溶かしました。通信の仕組みを理解している人がセキュリティを担う需要は、むしろ広がっています
- 自動化を「作る側」の仕事 — 設定作業を自動化するコード(Ansible、Terraform、Pythonなど)を書き、運用の仕組みそのものを設計する仕事。「自動化される側」の対極です
- 障害の根本原因を切り分ける仕事 — 監視ツールが「何かおかしい」を検知しても、「なぜおかしいのか」「どう直すか」の判断には、プロトコルレベルの理解が要ります。ここは簡単には自動化されません
- クラウドに移らない領域のインフラ — 金融、医療、工場、通信キャリアなど、要件上オンプレミスや専用線が残り続ける領域は確実に存在します
誤解されがちですが、クラウド化は「ネットワークの仕事がなくなる」ことを意味しません。パケットは今日も流れています。変わったのは、それを支える機器が自分のラックからクラウド事業者のデータセンターに移り、触る手段がコマンドラインから管理画面とコードに変わったことです。そして皮肉なことに、物理的に見えなくなった分、「なぜか通信が通らない」「どこで遅延しているのか分からない」というトラブルの切り分けは難しくなりました。セキュリティグループ、ルートテーブル、DNS、オンプレとの経路——見えないネットワークを頭の中で描いて追える人は、クラウド時代にこそ重宝されます。
ここで求人件数の統計を並べて「だから大丈夫」と言うことはしません。ただ、技術の構造として、通信の基礎(TCP/IP、ルーティング、DNS、負荷分散)はクラウド時代にも一切無駄になっていないことは断言できます。むしろクラウドを触るアプリケーションエンジニアにとって、ネットワークは苦手領域になりがちです。基礎を持っている人間が上のレイヤーを学ぶほうが、その逆よりずっと速い——これはネットワーク出身者の構造的な優位です。
「オンプレ監視・手順書運用のまま」が詰みやすい理由
では何が本当のリスクなのか。それは職種ではなく、「縮小していく側の作業だけを続ける状態に固定されること」です。そしてこれは本人の努力不足の問題ではなく、多分に構造の問題です。
- 定型化された現場ほど、学習機会がない — 手順書どおりに動くことが正義の現場では、新しい技術に触れる余地が業務内にほぼありません。経験年数だけが増えて、スキル資産が積み上がらない構造になりやすいのです
- 夜勤・シフト勤務が学習時間を削る — 生活リズムが崩れる働き方は、業務外での勉強を物理的に困難にします
- 商流によっては配属を選べない — 客先常駐の形態では、監視・運用の現場に入ると同種の案件が続きやすく、自分の意思だけでは抜けにくい場合があります
怖いのは、この状態が「今日明日は何も起きない」ことです。監視の仕事は今日もあるし、来月もある。ただ、自動化の波は定型作業から順に置き換えていくため、気づいたときには「経験年数は長いのに、市場で評価されるスキルは薄い」という状況になりかねない。オワコンなのは職種ではなく、この滞留構造です。
自分がその構造の中にいるかどうかは、いくつかのサインで確認できます。この半年、手順書にないことを一度もしていない。障害対応の役割が「決められた連絡先に連絡すること」で終わっている。業務でクラウドにもコードにも一切触れる機会がない。——複数当てはまるなら、いまの快適さや忙しさとは無関係に、手を打つ時期だと考えてください。逆に言えば、構造から抜ける手を打てば、このリスクの大半は消えます。
オワコン化しないキャリアの寄せ方
幸い、ネットワークエンジニアから「残る側・増える側」への移動は、ゼロからの転身ではありません。持っている基礎の上に積む、段階的なシフトです。現実的な順番としては次のようになります。
- いまの業務の中に自動化の種を見つける — 毎回手で打っているコマンド、毎週作っている報告書、コピペで量産している設定ファイル。まずそのどれか一つをスクリプト化してみることが、「自動化される側」から「する側」への最初の一歩です。PythonやAnsibleは、教材で抽象的に学ぶより、自分のネットワーク運用の文脈で学ぶのがいちばん身につきます
- クラウドのネットワークを学ぶ — AWSやAzureのネットワーク周り(仮想ネットワーク、オンプレ接続、DNS、ロードバランサー)は、既存の知識がそのまま土台になります。個人アカウントで小さな構成を組んでみるだけでも、「あの機器の役割がクラウドではこれか」という対応表が頭の中にでき始めます。資格を目標に置くと学習範囲が明確になり、転職市場でも伝わりやすくなります
- セキュリティ方向へ広げる — ファイアウォールやVPNの運用経験がある人は、すでにセキュリティの入り口に立っています。ゼロトラストやクラウドセキュリティへ知識を広げる道は、ネットワーク出身者にとって最も地続きです
3つ全部を一度にやる必要はありません。大事なのは、「手を動かす場所を、縮む側から増える側へ少しずつずらすこと」。いまの職場でそれができるなら業務内で、できないなら学習と転職で環境ごと変える。方向さえ合っていれば、歩幅は小さくて構いません。
もう一つ実務的な補足を。寄せた結果は、職務経歴書に書ける形にしておくことが重要です。「監視業務を担当」ではなく、「監視業務のうち定型の一次対応をスクリプト化した」「検証環境をコードで構築できるようにした」と書けるかどうか。同じ現場にいても、この一行を作れた人と作れなかった人では、数年後の選択肢の広さがまったく違ってきます。
いま「辞めたい」と感じている人の分岐点
「オワコン」と検索する人の中には、将来不安だけでなく、いまの仕事が現につらい人も多いはずです。その場合、次の転職を考える前に、一つだけ切り分けてほしい問いがあります。
嫌いなのは「ネットワークという技術」なのか、それとも「いまの職場・働き方」なのか。
この2つは、疲れているときほど区別がつかなくなります。夜勤明けの頭で感じる「もう無理だ」は、職種への評価としては当てになりません。できれば休みの日に、障害の原因を突き止めたときの感覚や、ネットワークの仕組みを知ったときの感覚を思い出してみてください。そこに少しでも手応えの記憶があるかどうかが、分岐の手がかりになります。
- 技術自体は嫌いじゃない(むしろ障害対応で原因を突き止めた瞬間は面白い)——という人は、職種を捨てる必要はありません。前の章で書いた方向へ寄せながら、夜勤や定型作業のない環境へ移ることを考えるべきです。捨てるのは職種ではなく、いまの現場です
- 技術そのものに興味が持てない——という人は、職種ごと変える選択も十分に合理的です。ネットワークの経験は、開発職や社内SE、ITコンサルなど隣接職種でも「インフラが分かる人」として評価される土台になります
とくに監視・運用保守の現場のつらさは、この職種特有の構造から来ている部分が大きいので、「運用保守がつまらない・つらい」と感じている方は運用保守の仕事がつらい理由と抜け出し方を整理した記事も併せて読んでみてください。つらさの正体が職種なのか現場なのか、切り分けやすくなるはずです。
未経験からいまネットワークエンジニアを目指すのはアリか
逆に、これから入ろうか迷っている人にとってはどうでしょうか。両論を短く書きます。
アリと言える面:IT職種の中では入り口の門戸が比較的広く、通信の基礎という「腐らない知識」が身につきます。前述のとおり、その基礎はクラウドやセキュリティへ進む土台になります。
注意すべき面:入り口になりやすい監視・運用の現場は、まさにこの記事で書いた「縮小していく側」です。つまり、入ること自体はアリでも、「入ってから寄せ続ける」前提が必須ということです。最初の現場に安住する働き方とは相性が悪くなりました。
これから入るなら、「監視オペレーターとして一生働ける職種」ではなく、「通信の基礎を実務で身につけて、クラウドやセキュリティへ進むための入り口」と捉えるのが現実的です。その覚悟があるなら、基礎から積める職種としての価値は依然としてあります。逆に、その前提を知らされないまま「未経験歓迎・研修充実」の言葉だけで飛び込むと、数年後にこの記事の検索者と同じ場所に立つことになります。
未経験からこの職種に入るべきかどうかの判断材料は、ネットワークエンジニアは「やめとけ」と言われる理由を検証した記事で詳しく扱っているので、入職前の方はそちらをどうぞ。
「オワコンかどうか」は、実際の求人で確かめられる
※本記事にはアフィリエイト広告が含まれます。
最後に、実務的な提案をひとつ。「ネットワークエンジニアはオワコンか」という問いに、匿名の言説やこの記事だけで結論を出す必要はありません。転職サイトやエージェントで「ネットワークエンジニア」「クラウド」と検索してみれば、いまどんなスキルを求める求人が並んでいるか、一次情報として自分の目で確かめられます。今すぐ転職するつもりがなくても、市場の定点観測の道具として登録しておく価値はあります。どの方向に寄せるべきかは、求人票がいちばん正直に教えてくれるからです。
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眺めるときのポイントは、求人票の「歓迎スキル」の欄です。ネットワークエンジニア向けの求人に、クラウドや自動化、セキュリティのキーワードがどれくらい入り込んでいるか。月に一度でも同じ検索条件で眺めていると、どのスキルの要求が増えてきているかが自分の体感として分かるようになります。それが、この記事で書いた構造変化の、いちばん生々しい答え合わせになります。
まとめ — 職種が消えるのではなく、仕事の中身が移る
整理します。クラウド・自動化・AIによって、ネットワークエンジニアの仕事のうち「物理構築」「手作業の設定」「目視の監視」は確かに縮小しています。「オワコン」という不安には、それだけの実体があります。この記事は、その実体を否定しません。
しかし同時に、クラウドネットワーク、セキュリティ、自動化を作る側の仕事は職種の内側で広がっており、通信の基礎はそのすべての土台としてそのまま生きます。危ないのは職種ではなく、縮小する側の作業に固定される構造のほうです。そしてその構造は、方向を決めて小さく動き始めれば抜けられるものです。
だからやるべきことは、職種を悲観することでも楽観することでもなく、自分の手を動かす場所を少しずつ「増える側」へずらすこと。その一歩は、明日の業務の中の小さな自動化からでも、クラウドの学習からでも、求人市場を自分の目で見ることからでも始められます。夜中に検索したくなるほどの不安は、動くための燃料に変えてしまいましょう。